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東京高等裁判所 平成9年(ラ)2039号 決定

抗告人 住銀保証株式会社

右代表者代表取締役 A

右代理人弁護士 高津季雄

相手方 株式会社サンライフ・ツーリスト

右代表者代表取締役 B

主文

一  原決定を取り消す。

二  相手方に対する売却を不許可とする。

理由

一  抗告人は、主文と同旨の裁判を求めた。抗告の理由は別紙執行抗告理由書写し〈省略〉のとおりである。

二  本件記録によれば、次の事実を認めることができる。

1  抗告人は、平成四年二月二五日、C(以下「C」という。)所有の原決定別紙物件目録〈省略〉の土地(以下「本件土地」という。)に設定された抵当権(昭和六〇年九月一一日及び昭和六二年三月九日各設定登記)に基づき、本件土地の競売を申し立てた。

2  執行裁判所は、平成八年七月一五日、本件土地の最低売却価額を一一八六万円と決定した。右最低売却価額は、株式会社ホワイトハウス(以下「ホワイトハウス」という。)が、本件土地に対し、同土地上に建築した建物の建築工事請負残代金三四五七万五九〇四円を被担保債権とする商事留置権を有するものとして、本件土地の評価額四六四三万円から民事執行法一八八条、五九条四項により引受となる右被担保債権額を控除して端数調整をしたものである。

3  ホワイトハウスのCに対する右建物建築工事請負残代金債権発生の経緯等は次のとおりである。

(一)  Cは、犬の販売店を営んでいた者であるが、昭和六三年四月四日、建築請負業者であるホワイトハウスとの間で、本件土地上に地下一階、地上三階建の鉄筋コンクリート造共同住宅(賃貸用マンション)を、請負代金八五〇〇万円、代金支払方法は契約成立時二八〇〇万円、各階コンクリート打設時二九〇〇万円、完成引渡時二八〇〇万円の約定で建築する内容の工事請負契約を締結し、翌五日、ホワイトハウスに対し請負代金内金二八〇〇万円を支払った。

(二)  ホワイトハウスは、右請負契約に基づき建築工事を行い、昭和六三年九月二六日までに各階コンクリート打設を完了し、Cに対し中間金二九〇〇万円の支払を請求したが、同人はこれを支払わなかった。

(三)  そこで、ホワイトハウスは、同年一〇月下旬ころまでに右建物建築工事を中止し、Cとの間で弁護士を通じて請負代金の支払の交渉をしたが、交渉中にCが自己の依頼していた弁護士を解任した上で建物の解体と建築確認申請の取下げを要求するに至ったため、交渉は決裂した。そして、ホワイトハウスは、同年一二月二七日、六〇パーセント程度完成していた本件土地上の建物(外壁、各階床及び屋上のコンクリート打設は全部完了したが、その大部分がコンクリート打ち放しのままで、内部の造作は未施工の状態であった。以下「本件建物」という。)について、請負残代金債権を保全する目的で、同社名義による所有権保存登記をした。

(四)  ホワイトハウスが主張する本件建物の工事出来高は六二五七万五九〇四円であり、これから受領済みの二八〇〇万円を控除した残額が前記被担保債権額の三四五七万五九〇四円である。

三  商事留置権が成立するためには、債務者所有の物がその債務者との間における商行為によって債権者の占有に帰したことを要する(商法五二一条)。ところで、建物建築工事請負人は請負契約の趣旨に従って建築する建物の敷地である土地に立ち入り建築作業をするのが通常であり、工事の着工からその完成と注文主への引渡までの間の請負人による土地の使用は、他に別段の合意があるなどの事情がない限り、使用貸借契約などの独立の契約関係に基づくものではなく、請負人が請負契約に基き工事を完成し完成した建物を注文主に引き渡すべき義務の履行のために、注文主の占有補助者として土地を使用しているにすぎないというべきであり、土地に対する商事留置権を基礎付けるに足りる独立した占有には当たらないと解するのが相当である。

そして、本件においては、建築請負代金不払の事態が発生してホワイトハウスが本件建物の所有権を原始取得し、本件建物を所有することによりその敷地を独立して占有するに至ったが、この場合の土地の占有は、当初の請負契約に基づく請負人の土地使用とは別個のものであり、請負人と注文主との間の商行為としての請負契約に基づくものともいえないから、請負人が右占有を基礎として敷地に対する商事留置権を主張することはできないというべきである。

そうすると、前記別段の合意等の事情を認めるに足りる資料もない本件においては、ホワイトハウスが本件土地に対し前記建築工事請負残代金を被担保債権とする商事留置権を有するものと認めることはできず、本件土地にホワイトハウスが商事留置権を有することを前提として、その被担保債権額を本件土地の評価額から控除して算定された本件土地の最低売却価額の決定には重大な誤りがあるというべきであるから、その余の抗告理由を判断するまでもなく、原決定は取り消しを免れない。

四  よって、原決定を取り消した上、本件売却を不許可とすることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 荒井史男 裁判官 大島崇志 寺尾洋)

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